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第24章 預言者は地元では信用されないというが (2) |
アヴォンリーでの暮らしは流れるようにすぎ、人生行路も穏やかにいとなまれていった。「植樹祭」も行われた。改善員たちが実施したのだ。会員は、一人が五本ずつ飾り木を植えるか、あるいは人に植えてもらったのだ。今や会員は四十人にのぼるので、合計二百本もの若木が植えられた。赤土の畑では、早まきのカラス麦（オート）がどこも青々と芽を出していた。リンゴの果樹園では花ざかりの大きな枝が広がり、農家を包みこむように咲いていた。《雪の女王様》も花婿（はなむこ）のために装う花嫁のように（３）、満開の花を美しくまとっていた。アンは窓を開けて眠るのを好んだ。一晩中、ほのかな桜の香りを顔にあびていたかったのだ。とても詩的なふるまいだと思っていたが、マリラに言わせると、夜風に当たって寝るなんざ命にかかわる沙汰（さた）だった。 「感謝祭（４）は、春にお祝いをするべきよ」春の夕暮れどき、アンはマリラに語った。二人は玄関先の階段に腰かけ、蛙たちの甘く澄んだ合唱（コーラス）に耳を傾けていた。 「何もかも枯れたり眠ったりしている十一月にお祝いするより、ずっといいわ。十一月では無理やり思い出して感謝しないといけないけど、五月なら、すべてが生き生きと萌えさかっていることに感謝せずにはいられないものね。たとえ何一つ特別なことはなくてもね。イヴがまだエデンの園を追放される前は、今の私のような気持ちだったと思うの。ほら、窪地のあの若草、緑色にも金色にも輝いている。今日はまるで一粒の真珠のような一日だわ、花はいっせいに咲きひらいて、風たちはどうにかなりそうなくらいに愉しくて、次にどこへ吹いていいのかわからないくらい。天国って、きっとこんなすてきなところだと思うわ」 マリラはぎょっとして辺りを心配そうに見渡した。とてつもない天国の解釈が、双子の耳に入らなかったか確かめたのだ。するとちょうど双子が家の角をまわってきた。 「今夜はすっごくいい匂いだね」デイヴィは嬉しそうに鼻をフンフンさせ、汚れた手に握った鍬（くわ）をふりまわした。庭仕事をしてきたのだ。どろんこをこねて大喜びしているデイヴィの情熱を役にたつほうへむけようと、この春、マリラは、デイヴィとドーラに庭の一画を与えたのだった。二人は庭作りに励んだが、それぞれの性格がよく出ていた。ドーラは、種まき、草とり、水やりを、よく気を配って、計画をたてて、黙々と行った。その結果、ドーラの区画は今や、野菜と草花がきちんとした小さな畝（うね）をなして整然と並んでいた。しかしデイヴィは夢中になって働くものの、思慮深さに欠けていた。あんまり精力的に引っこ抜いては鍬を入れ、熊手でかきならし、水をやり、別のところに植えかえるので、まいた種がうまく育つひまがなかった。 （つづきを読む）／（前に戻る） 『アンの青春』モンゴメリ著、松本侑子訳 （集英社刊、2001年10月発行、2000円）より引用 無断転載厳禁。 「アンの青春」の本文紹介／赤毛のアン電子図書館／松本侑子ホームページ |