第24章　預言者は地元では信用されないというが（１） (1)

　五月のある日のこと、アヴォンリーにちょっとした波紋がまきおこった。シャーロットタウンの『エンタープライズ新聞』に「アヴォンリー覚え書き」と題された記事が、「観察者」という署名つきで載ったからだ。書き手はチャーリー・スローンではないか、というのがもっぱらの噂だった。チャーリーは以前も似たような軽い調子の匿名記事を書いたことがあり、さらには、覚え書きの一つがギルバート・ブライスに対して冷笑的だったからだ。アヴォンリーの若者社会では、ギルバート・ブライスとチャーリー・スローンは、想像力豊かで灰色の瞳をした娘の愛情をめぐって、ライバル関係にあると固く信じられていた。

　しかし噂というものは往々にして誤っているもので、筆者はギルバートだった。アンに投書するようにそそのかされ、助けを借りて書いたのだ。誰が書いたかわからないよう人目をそらすために、ギルバートは自分についての覚え書きも一つ入れたのだった。さて、ここでくりひろげられる事件に関係があるのは、覚え書きのなかでも、次の二つだ。

「噂によると、ヒナギク（デイジー）が咲く前に、アヴォンリーで結婚式がとり行われるようである。新しく村に来た厚く尊敬される人物が、わが村でもっとも人気のある女性（レディ）を婚礼の祭壇へ導くであろう」

「われらが著名なる天気予報者アンクル・エイブの予言によると、雷をともなった大嵐が、五月二十三日の夕刻七時きっかりに訪れるであろう。嵐は島の広範囲に及ぶため、この夕方、外出される方々は、傘とゴム引きの雨合羽をお忘れないように」

「アンクル・エイブは、この春のどこかで嵐が来るって、本当に予言していたんだよ」ギルバートが言った。「でもハリソンさんがイライザ・アンドリューズに会いに行っているというのは本当かな」
「それはないわ」アンは笑った。「ハーモン・アンドリューズさんとチェス（２）をしに行っているだけよ。でもリンドのおばさんは、イザベラ・アンドリューズは結婚するに違いない、あの人ときたら今年の春はやけにご機嫌だからねって」

　アンクル・エイブのじいさんは、気の毒に、覚え書きを読んで腹をたてた。じいさんは、「観察者」なる人物が自分を馬鹿にしていると勘ぐったのだ。嵐が来る日時まで予言した憶えはないとカンカンに怒ってうち消そうとしたが、誰も相手にしなかった。

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『アンの青春』モンゴメリ著、松本侑子訳
（集英社刊、2001年10月発行、2000円）より引用
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