目次の訳注 （１）慌てて売って、ゆっくり悔やむ……英語の諺「慌てて結婚して、ゆっくり悔やむ」のもじり。アンは後先見ずに慌てて牛を売り、後で悔やむ。 （２）男も女も人さまざま……直訳すると「あらゆる階級、種類の男たち、そして女たち」。このもとになった、「あらゆる階級、種類の男たち」All sorts and conditions of menは、もともと英国国教会の祈祷書の一節、今は熟語。［Re／In］ （３）ヨナの日……ヨナは旧約聖書「ヨナ書」の主人公、ヘブライの預言者。ヨナは神に背いたために次々と災難にあうことから、ヨナの日とは不運続きの一日。この章でアンが数々の災難に襲われることを暗示する章題。 （４）待ちこがれた訪問、決まる……この章題は意訳で、原文を直訳すると「望んでいる事の中身」。新約聖書「ヘブライ人への手紙」第十一章第一節「信仰とは望んでいる事の中身を確信し、見えない事実を確認すること」の引用。［RW／In］ （５）トーリー……保守党の別名。トーリー街道（保守党街道）はその名にそぐわず保守党員がいない上に住人もろくにいないので使われていない。ダイアナは無用の長物だと批判する。 （６）ラヴェンダー……芳香のあるハーブ。紫色または白の小さな花をつける。花と茎の清潔で甘い香りは古くから欧州で愛された。現在では男性化粧品の香料ほかバス用品、ハーブティ、アロマオイルなどに利用される。化学薬品のなかった十九世紀以前は防虫剤、芳香剤として広く家庭で使われた。本書でもミス・ラヴェンダーの母親の実家はシーツなどリネン類の虫除けと香りづけに使っている。本書の背景となるヴィクトリア朝は生活品に香りをつけることが流行り、とくにラヴェンダーが人気だった。女性に草花の名をつけるのも十九世紀から流行った。花言葉は「貞節」「優しさと尽きぬ愛情」「熱くとも口に出さぬ愛」。ミス・ラヴェンダーの秘めた恋にふさわしい。 （７）預言者は地元では信用されないというが……イエスが布教を始めた当初、生まれ故郷のナザレで神の教えを説いても、イエスの生いたちや両親兄弟姉妹をよく知る地元の人たちは信用せず、相手にしなかったという聖書の一節にちなむ。アンクル・エイブも地元のアヴォンリーで予言をしても信用されなかったという意味。新約聖書『マルコによる福音書』第六章第四節、『マタイによる福音書』第十三章第五十七節、『ルカによる福音書』第四章第二十四節、『ヨハネによる福音書』第四章第四十四節に記載がある。本書第14章「預言者などという人物は地元ではさほど尊敬されない」参照。［In］

各項文末の記号について ［RW］は、'L. M. Montgomery's use of quotations and allusions in the "Anne" books' by Rea Wilmshurst, "Canadian Children's Literature" Vol.56, 1989 をもとに、その誤記を訂正し、さらに訳者が引用意図を加筆した。［In］はインターネットの検索サイトで『アンの青春』の英文で検索して一致した英米詩を調査した。［Re］は研究社『リーダーズ＋（プラス）プラス』、［St］は『スティーヴンソン引用句辞典』、［Lo］は『ロングマン引用句辞典』、［Ox］は『オックスフォード引用句辞典』による。 聖書からの引用は邦訳聖書として代表的な新共同訳聖書にもとづくが、一部は解説をわかりやすくするために訳者が欽定版から訳した。引用元となった詩、モンゴメリの日記の紹介は拙訳による。各資料の詳細は、『アンの青春』巻末の参考文献一覧を参照。 ●この文章の著作権は、筆者・松本侑子に帰属します。 無断転載は、著作権法で、厳しく禁止されています。 論文、個人・法人のサイト等に引用される場合は、著作権法の規定にもとづき、 「モンゴメリ著『アンの青春』（松本侑子訳、集英社、2001年）より引用」と明記して下さい。

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