第24章　預言者は地元では信用されないというが (5)

　やがて嵐は、始まったときと同じように突然、終わった。雹がやみ、雷はゴロゴロ言いながら東へ遠ざかっていった。太陽はまた明るく照り出したが、辺りの様子は一変していた。わずか四十五分の間に、こうも変わり果てるのかと信じられないほどだった。
　ひざまずいていたマリラはよろよろ震えながら立ち上がり、揺り椅子に倒れこんだ。顔はやつれはて、十歳も年をとったようだった。

「みんな無事だったかい」マリラは重々しく言った。
「もちろんさ」デイヴィが元気いっぱいで答えた。いつものやんちゃぶりをとりもどしていた。「ちっとも怖かなかったよ。最初だけだよ、急に来たからね。それですぐに決めたんだ、月曜日にテディ・スローンと決闘をすることになってたけど、やめようって。だけど最後の審判じゃなかったから、やっぱり決闘しようかな。ドーラは怖かったかい？」
「うん、少し怖かった」ドーラはおすまし顔で言った。「でも、アンの手をぎゅっと握って、何度もお祈りを唱えていたの」
「お祈りという手があったのか。ぼくも思い出せば、したのにな」デイヴィが言った。「だけどね」と勝ち誇ったようにつけ加えた。「お祈りなんかしなくても無事だったよ、ドーラみたいに」

　アンはマリラに、気つけに効くスグリ酒（カラント・ワイン）を、グラスになみなみとついだ。スグリ酒がどんなに効くか、アンは子どものころの経験で充分すぎるほど知っていた。それからみんなで外へ出ると、見慣れない光景が広がっていた。
　どこもかしこも雹のかたまりが膝までつもり、白い絨毯をしきつめたようだった。軒下と玄関の階段には、雹が吹きよせられ、うずたかくつもっていた。三、四日して雹がとけてなくなると、被害の様子が目に見えてきた。畑の農作物と庭の草花は、一本残らずなぎ倒されていた。果樹園のリンゴは、花が全部落ちたばかりか、小枝も太い枝も折れ、もぎ取られていた。改善協会で植えた二百本の若木もほとんど倒れ、ずたずたにさけていた。

「これが一時間前と同じ世界だなんて、信じられない」アンは茫然自失となった。「こんなにめちゃくちゃにするには、もっと時間がかかるはずなのに」
「プリンスエドワード島始まって以来だよ」マリラが言った。「まずなかったね。子どもの時分にもひどい嵐があったが、これに比べたら、何でもなかったよ。そのうち大きな被害が出てくるよ」
「子どもたちが嵐にあってなければいいけど」アンは心配してつぶやいた。幸い、生徒はみな無事だったと後でわかった。馬車に乗らなかった子はみな、家までの距離にかかわらず、アンドリューズ氏の卓越したアドバイスを聞き入れて郵便局に避難していたのだ。

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『アンの青春』モンゴメリ著、松本侑子訳
（集英社刊、2001年10月発行、2000円）より引用
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「アンの青春」の本文紹介／赤毛のアン電子図書館／松本侑子ホームページ