第24章　預言者は地元では信用されないというが (4)

　目をむけたアンは、驚きのあまり叫び声をあげた。北西の空に、見たこともない大きな黒雲がもくもくわきたち、猛烈な勢いで迫ってくる。雲は不気味なほど黒いのに、むくむくめくれあがる縁（ふち）はぞっとするほど白かった。そんな雲が、晴れた青空をかげらせていく様子は、言葉にできないほど恐ろしかった。時折、ひとすじの稲光が走ったかと思うと、ゴロゴロッと雷が荒々しくとどろいた。黒雲は低く、丘の木々の天辺にかかりそうだ。

　ハーモン・アンドリューズ氏が葦毛（あしげ）馬を猛スピードでかりたて、荷馬車をガチャガチャいわせて丘を上ってくると、学校の前で馬を止め、叫んだ。
「アンクル・エイブの予言が、生まれて初めて当たったようだ。嵐が来る時間はちと早かったがな。あんな雲、見たことあるかい？　さあさ、子どもたち、私と同じ方角へ帰る子は、乗った乗った。そうじゃない子は、家まで四分の一マイル（約四百メートル）より遠いなら、郵便局へかけこむんだ。嵐がおさまるまで、動くんじゃないぞ」

　アンは、デイヴィとドーラの手をつかみ、丘を飛ぶようにかけ下りた。《樺の道》を抜け、《すみれの谷》と《ウィローミア》を通り、双子の丸々した足でかけられる限りに走った。グリーン・ゲイブルズに着くと、戸口でマリラと一緒になった。アヒルとニワトリを追いたてて小屋に避難させてきたのだ。そして三人が台所に飛びこんだ瞬間、光という光がぱっと消えた。巨大な力が、ふっと光を吹き消したようだった。恐ろしい黒雲が太陽をおおい隠し、夕闇がばさっと落ちてきた。と同時に、ドン、といきなり雷鳴がとどろき、目のくらむような稲妻が走ったかと思うと、雹（ひょう）が襲いかかるように落ちてきた。外の景色は、激しい雹に真っ白にかき消され、見えなくなった。

　荒れ狂う大嵐の間、たえず木々の枝がさけて家にどさっとぶちあたり、窓ガラスは激しい音をたてて割れ、飛び散った。三分後には、西側と北側の窓ガラスはすべて割れ、雹と小石がふりこんで床につもっていった。一番小さな雹でも、ニワトリの卵ほどもあった。一時間近く、嵐はおとろえずに荒れ狂い、経験した人は誰もが忘れられないほどの凄（すさ）まじさだった。マリラは恐ろしさのあまり、生まれて初めて我を忘れて震えあがった。耳をつんざく雷鳴がとどろくさなか、台所のすみで揺り椅子（ロッキングチェア）にひざまずき、息も絶え絶えになってすすり泣いていた。アンは、紙のように真っ白な顔をしてソファを窓際から奥に引きずってくると、双子を両脇にかかえてすわりこんだ。デイヴィは最初に窓ガラスがガチャーンと割れたところで悲鳴をあげ、「ついに最後の審判が来たの？　ぼく、わざと悪いことしたんじゃないんだよ」と叫ぶと、アンの膝に顔をうずめ、小さな体を震わせた。ドーラもいささか青ざめていたが、落ちついた様子ですわり、アンの手を握って身じろぎもしなかった。たとえ大地震が起きようとも、ドーラは取り乱さないだろう。

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『アンの青春』モンゴメリ著、松本侑子訳
（集英社刊、2001年10月発行、2000円）より引用
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