第１章　怒りっぽい隣人　(7)

「育ててくれる人がいない子どもを見ると、いつもかわいそうで仕方ないの」アンは真剣になった。「私だって、マリラが引きとってくれるまで、誰も面倒を見てくれる人がいなかったのよ。おじさんが双子を育ててくれるといいわね。マリラはキースの奥さんと、どういう親戚なの」
「メアリとかい？　何のつながりもないよ。親戚だったのは死んだ旦那のほうでね。またまたいとこだったのさ。あれ、レイチェルが庭をやってくる。思った通りだ、メアリのことを聞きに来たんだよ」

「ハリソンさんと牛でもめたことは、言わないでね」アンは頼んだ。
　マリラは請けあってくれたが、その必要はなかった。リンド夫人は腰をおろすやいなや、切り出したのだ。
「見ましたよ、ハリソンさんが、牛をカラス麦畑から出そうと、追いかけ回してたよ。今日、カーモディからの帰りに見かけてね。カッカと頭に来ているようだったが、大した剣幕で怒鳴りこんで来たでしょう」

　アンとマリラは、ほら来たとばかりに、しのび笑いをかわした。リンド夫人は、アヴォンリーのどんなささいなことも見逃さないのだ。ちょうどその朝も、アンは言ったばかりだった。「夜中に寝室に上がって、ドアに鍵をかけて、日よけもおろして、それからくしゃみをしても、リンドのおばさんなら、次の日、風邪はどんな具合かねってきくわよ！」
「どうやらハリソンさんはうちへ来たようだね」マリラはうなずいた。「私は出かけていたんだが、アンを怒鳴りつけたんだよ」

「本当に不愉快な男だわ」アンは憤慨して、赤毛の頭をつんともたげた。
「ほんとにその通りだよ」リンド夫人はもったいぶって言った。「ロバート・ベルが、ニュー・ブランズウィックの男なんぞに家土地を売ったときから、騒動が起きると思ってたよ、まったく。こんなによそ者がくるんじゃ、アヴォンリーもこの先どうなるやら、わかったものじゃない。そのうちおちおち寝ていられなくなるよ」

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『アンの青春』モンゴメリ著、松本侑子訳
（集英社刊、2001年10月発行、2000円）より引用
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