舞台は、19世紀末カナダ東海岸のプリンス・エドワード島州。

　この島のアヴォンリー村に、一軒の農家があり、60代のマシュー・カスバートと、50代のマリラ・カスバートという独身の兄と妹が暮らしていました。

　子どものいない2人は、将来に備えて、男の子を引きとろうと考え、カナダ本土の孤児院へ、親のない子どもを頼みます。ところが手違いで、赤毛で、やせっぽちの女の子がやってきます。

　その子が主人公のアン・シャーリー（Anne Shirley）、11歳です。

　マリラは、女の子は農作業の役に立たないからと、追い返そうと考えますが、アンの生き生きとした明るさ、可愛いおしゃべりに、まずマシューが虜になります。
　ほどなくマリラも、アンの気立てのよさにすっかり魅せられ、結局、引きとって、育てることになります。

　こうしてアンは、プリンスエドワード島州の緑と海に囲まれた美しい自然のなかで、マシューとマリラの愛情に恵まれ、また同級生のダイアナとの間に友情を培いながら、すこやかに育ち、最後には、優しく、賢く、一種独特の魅力をたたえた16歳の娘になります。

　と同時に、それまでは世間づきあいが苦手で、兄妹だけで寂しく生きてきたマシューとマリラが、アンを育てることによって、生まれて初めて子どもを愛する喜び、子どもから慕われる幸せを知って、世界に心を開き、温かな魅力をたたえた人物へと、劇的に変貌していきます。

　物語の後半、向学心にあふれるアンは、優秀な成績で学校を卒業して、教員の資格をとります。

　さらに、カナダ本土にある４年生大学へ進む奨学金を獲得しますが、思いがけない出来事がアンの人生に悲しい影を投げかけ、彼女は、人生の大きな選択と決断を迫られます･･････。

　この名作小説は、アンという子どもの成長をすこやかに描くだけではでなく、マシューとマリラのように人生の半ばをすぎた大人が、勇気を持って新しい生き方を始めることで人間として成長し、新たな幸福を手にしていく姿を描いています。

　子どもの成長と大人の成熟、生きる喜び、苦難も悲しいこともある人生を力強く生き抜いていくすべが、ユーモアたっぷりに、また感動的に描かれているからこそ、『アン』は、約100年にわたって、世界の人々に愛され、読みつがれているのだと思います。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　松本侑子

（NHKラジオ講座「ものしり英語塾」テキスト2007年1月号掲載の「謎とき赤毛のアン」第１回の原稿に加筆編集）