第24章　預言者は地元では信用されないというが (7)

　この日、アンクル・エイブは朝早くから雹をふみわけて鍛冶屋へ出かけ、丸一日すごした。アンクル・エイブにとっては得意満面の一日で、大手柄を存分に楽しんだ。嵐が来てエイブじいさんが喜んだと言うと語弊（ごへい）があるが、どうせ来る嵐なら、あらかじめ予言して――しかも日付まで当てて良かったと思ったのだ。日にちを予言した憶えはないと怒ったことなど本人はきれいに忘れていた。時間も少々違っていたが、そんなことは大したことではなかった。

　夕方、ギルバートがグリーン・ゲイブルズを訪ねると、マリラとアンは、割れた窓にせっせと油布（オイルクロス）をはり釘で留めつけていた。
「いつになったら窓ガラスが手に入ることやら」マリラが言った。「午後、バリーさんがカーモディへ行ったんだが、どうやっても一枚も買えなかったそうだ。ローソンの店でもブレアの店でも、朝十時にはカーモディの人たちが一枚残らず買ってしまったそうだ。ギルバート、ホワイト・サンズでも嵐はひどかったかい」
「大変でしたよ。ちょうど学校にいて、子どもたちと一緒でしたが、怖がるあまり頭が変になる子が出るんじゃないか心配したほどでした。三人が気を失って、二人の女の子がヒステリーを起こして、トミー・ブリュエットにいたっては最初から最後までキーキー声をあげっぱなしでした」
「ぼくは一回しか悲鳴をあげなかったよ」デイヴィは自慢して、それから悲しそうに続けた。「でもね、ぼくのお庭、ぺちゃんこになぎ倒されたの」しかしギレアドにはまだ慰めになる香油がある（６）と言わんばかりの調子でつけ加えた。「だけどドーラのお庭もおんなじだからね」

　西窓の部屋にいたアンが、かけ下りてきた。
「ギルバート、聞いた？　リーヴァイ・ボウルターさんのあばら屋に雷が落ちて、焼けたんですって。大変な被害があちこちで出ているのに、落雷で喜ぶなんて申し訳ないけれど。ボウルターさんは、アヴォンリー村改善協会が魔法でわざと嵐を起こしたに違いないと言っているんですって」
　ギルバートが笑った。「一つだけ確かなのは、『観察者』が書いた記事のおかげで、天気予報者エイブの名が上がったことだね。『アンクル・エイブの大嵐』といって、地元の歴史に残るよ。それにしても、僕らがたまたま書いた五月二十三日に、ちょうど嵐が来るなんて、滅多にない偶然の一致だよ。本当に僕が『魔法』で嵐を起こしたみたいで、実のところ、ちょっと気がとがめているんだ。でも、あのあばら屋がなくなったことを喜ぶのは悪いことじゃないよ。だってせっかく僕らが植えた若木がどうなったかを思えば、喜ぶことなんかほかにないからね。十本も助からなかったんだよ」
「そうね、来年の春、また木を植えればいいわ」アンは、哲学者のように達観して言った。「毎年、春は必ずやってくる――それがこの世界のすばらしいところよ」

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『アンの青春』モンゴメリ著、松本侑子訳
（集英社刊、2001年10月発行、2000円）より引用
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